心が置き去りのままのあなたへ。

喪失体験と一言で言っても、経験した喪失は人それぞれです。

当たり前のことでもありますが、いざ自分が当事者になると、動揺が激しかったり、どうしていいか分からなくなったり、目の前のやらなければいけないことに翻弄されたりして、他の人はどうしているんだろう、世間一般ではどのような対応をしているんだろう、経験者の経験談を知りたい、など心情的にも状況的にも流されるようにその時が過ぎていって、必死にその時をやり過ごしたという方も多いと思います。

そして、現実にしっかりと対応してやるべきことをやった方こそ、その後自分自身に大きく影響してくることがあります。

置き去りのままの心

頑張ってどうにかやるべきことをやった、と言うのは、例えば、思いもよらず急な別れとなったあの人を目の前に、これからどうするのかの判断をいくつも瞬時に求められ、段取りをし、連絡をし、どうにか見送ることができたとします。

同じケースでないにしても、やるべきことに何とかくらいついて進んでいく感じだった、考えている暇などなかった、とにかく決めないといけなかった、と話される方も多く、まるで違う世界に居るようだったとも言われます。

けれど、やるべきことをしている時間の流れの中には、本当はいくつもの瞬間が存在しています。

その瞬間とは、沸き起こる本音や気持ちを瞬時に抑え込む瞬間です。

え?どうしてこんなことに?

(今はそんなことを言っている場合じゃない!)

どうしよう。どうしていいか分からなくて怖い。

(わたししか居ないんだから、しっかりしないと!)

こんなのイヤだ。信じられない。

(とにかくやれることをやらないと!)

やめて、ひとりにしないで。

(言っても現実は変わらないんだから!)

誰か助けて。

(わたしがやるしかないんだから!)

このようにその時その時の場面において沸き上がってくる自分の本当の気持ちを、瞬時に打ち消して、自分を保つことでそのつらい現実に対応しようとします。

なぜ、自分の気持ちを瞬時に打ち消そうとするのかというと、自分の中から沸き起こってくるたくさんの不安や恐怖や絶望に対して、出てこないように抑えて閉じ込めることで、自分の感情に飲み込まれないようにするためです。

自分の気持ちを一旦封印しないと、次から次にやってくる物事や現実に対応することができないからです。

感情のスイッチをオフにして、自分の本音を自分から切り離し、一度横に置いておくことで自分自身が壊れることなく目の前のことをどうにかやり過ごすことができます。

これは心の防衛反応でもあり、誰にでも自然に起こる心の反応です。

自分に起こった喪失を、自分から一度取り出すことで客観的に自分を見ることができるからです。

心理的に追い詰められた人が事実にすぐに直面しなくてよくなるので、主語を自分から他人に変えて、自分に起こったことではないかのような他人事として受け止めることで、自身の心が壊れてしまわないように守っています。

この状態の時に、無理に事実を突きつけたり、直面しようとすると、心の方が保てなくなってしまいます。

なので、人がこのように自分の気持ちを自分から切り離し、取り出しておくことがその時は必要になるのですが、その状態がいつまでも続いてしまうと、心だけが置き去りのままになってしまいます。

感情はあなた自身

もしもあなたの心が置き去りのままになっている状態であるなら、このようなことが起こっているかもしれません。

・あれから気持ちが動くことがなくなった。

・人に対して怒らなくなった。

・あの日のことを思い出さなくなった。

・何に対しても無気力でやる気がなくなった。

・自分に起こることはどうでもいいと感じている。

・寸暇を惜しんで色々なことに取り組んでいる。

・体調を崩さない限り休みを取らない。

・喪失体験を人に話す時も淡々と事実を伝える。

これらのことは、あなたの心の中から感情が切り離され、あなたの心の外側へと取り出されて、あなたの横に置かれたままであることを伝えてくれています。

感情とは自分自身のことだとわたしは思っています。

その感情が自分のものではなく、どこか別のものとして存在させているのですから、あなた自身を感じることができない状態になっているのは当然のことです。

あなたはあなたの感情と距離を取ることで、つらく苦しく痛い喪失に何とか対応したんです。

そうすることでしか自分でいられなかったんです。

それでも、ずっとそのままであることはできません。

何度も言いますが、感情はあなた自身だからです。

もしも今でもあなたの心が置き去りになったままで、先ほどのような状態が出ているのであれば、それは置き去りにしたままの気持ちを、あなたの中に迎え入れてあげる時なのだとわたしは思います。

あなたの心を戻すには

この置き去りのままの感情をあなたの中に戻していくのは、実は簡単なことではないと思っています。

喪失体験が起きた時のあなたにとって、喪失と自分の気持ちがとてもじゃないけど共存できないからこそ切り離した自分の本音です。

ようやく、どうにか今を過ごせるようになってきたのに、これ以上自分の心を乱したくないとも思うのではないでしょうか。

けれど、置き去りのままの心を自分に戻すことであなたの中に戻ってくるのは、本当につらさや苦しみや痛みだけなのでしょうか?

大切に想う気持ち。

大切に想われた気持ち。

優しい時間。

あの人の言葉や行動。

安心できた心。

共に笑った思い出。

大事な存在と過ごした過去。

あなたの守られている今。

これからという未来。

これらも同時に、あなたの中に戻ってもくるとわたしは思っています。

それが苦しいと感じる時に、無理にあなたの中に戻す必要はありません。

つらいのになぜか思い返す機会が増えたり、振り返るきっかけを見たり、聞いたり、出来事が起こった時にこそ、あなたが自分の気持ちを迎え入れる準備ができたのだと教えてくれているのだとわたしは思います。

自分の気持ちであるとはいえ、自分の中に戻すことが怖く不安でもあることは確かです。

だからこそ、人と共にあなたの気持ちに、あなたが「おかえりなさい」と迎え入れてあげてほしいとわたしは思います。

自分の受け入れ難い気持ちをあなた自身が受け入れるには、まずは誰かにあなたのその気持ちをしっかりと受け止め、受け入れてもらうことが必要です。

それを行っているのがグリーフケアです。

あなたがひとりで何とか横に置いてきた本当の気持ちをひとつづつ迎えに行き、あなたと共にあなたの心へと戻していく。

それはあなた自身を取り戻すことでもあり、自分に起こった事実を受け入れることでもあります。

もしもあなたが今、自分の心が置き去りのままだと感じているのなら。

どうぞグリーフケアに安心してご相談くださいね。